2006年5月26日

意 見 陳 述 書


平成16年(行ウ)第68号
公金支出差し止等請求事件

原告 服部かをる

  1.  「利水面からみて、八ッ場ダムは要らない」ということにつき意見陳述をいたします。

  2. 私たちの主張の要旨は「水は余っているもかかわらず、千葉県は将来の水需要を過大予測し、その数字を根拠に八ッ場ダムは必要だ」としているが、実績から予測すれば、今の保有水源で充分足りており、「八ッ場ダムに参加する必要はない」ということです。
    全国的に、水は供給過剰であり、新しくダムを作る必要はなくなっていますが、ここでは、千葉県の場合にしぼって、「県の予測がいかに過大か」について説明します。

  3. まず、現在の千葉県の利水の状況ですが、このようになっています。農業用水が最も多く80%、工業用水は7%です。水道用水が足りないから八ッ場ダムが必要だと県は主張していますが、水道用水は全体の13%に過ぎません。また、農業用水、工業用水にはそれぞれ余剰分があることを県も認め、農業用水の余剰分は11%とされており、これは全体の8.8%にもあたるという事実を認識する必要があります。

  4. この表は、「2015年の水道用水の需要予測」で、左が県の主張、右が私たち原告の主張です。1年で一番たくさん水を使う日の需要量を「1日最大給水量」といいます。この1日最大給水量以上の水が供給できれば問題はないわけですが、県は1日最大給水量を計算する元となる数字(表のブルーの数値)を操作し、ダムが必要だという結論を導き出しています。計算の元となる人口その他の項目については、後ほど説明します。
      それでは、まず1日最大給水量について、水道用水、工業用水の実績と県の予測を見てみます。
     
  5. これは、水道用水の1日最大給水量のグラフです。1980年から1994年まで増加していましたが、その後横ばいとなり、最近は減少しています。にもかかわらず、県の予測はバブル期と同様に極端な右肩上がりとなっています。千葉県の現在の保有水源は、地下水を含め1日当たり252万m3です。

  6. 次は、1人あたりの1日最大給水量です。1995年から減少に転じていますが、県の予測は突然伸び始めています。1人1日最大給水量が減少しているのは、節水機器の普及と水道の漏水防止対策の向上によるものですが、今後も節水機器の普及や、漏水防止対策の向上が期待できます。1人1日最大給水量は減りこそすれ、増えることは考えられません。それをこのように増えるとしている県の予測は不合理です。

  7. 次は、工業用水です。工業用水の需要は、景気の低迷、工場立地の低迷と水のリサイクルの向上から横ばいとなっており、余剰利水が0.4%あるとされていますが、県企業庁の予測はこのように伸びています。現在の保有水源は1日当たり111万m3で、充分余裕があります。

  8. これは、水道用水と工業用水を合わせた都市用水の実績と予測です。やはり県の予測の過大性がよくわかります。
    次に、水道用水の1日最大給水量を計算する元となる項目について見てみます。

  9.  まず人口ですが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、今後2015年まで緩やかに増加し609万5千人となり、その後減少していくとされています。県内のシンクタンクであるちばぎん総研が今年3月公表した人口予測によると、ピークは2012年と前倒しとなっており、その後減少し、2015年には611万人になるとされています。ところが、千葉県が策定した「千葉県長期ビジョン」では、ピークが2020年で668万人、2015年に約655万人と予測しています。同じ県が策定した長期水需要による予測は、2015年に約628万人で、さすがに長期ビジョンの約655万人は採用していません。すでに、日本の人口が減り始めているにもかかわらず、千葉県の人口が増えるとは到底考えられず、628万人という数値も過大です。国立社会保障・人口問題研究所の数値、すなわち609万5千人を予測値とし、2015年が人口のピークかつ水需要のピークとみるのが妥当であると考えます。

  10. 次は、水道普及率です。県の予測は、99%ですが、水道が必ずしも良いわけではなく、地下水で事足りているのを、わざわざ水道に変える必要はありません。現在の水道普及率93%から予測すると、2015年には95%となりますが、普及が進むとしても、水道局の推定値96.9%が妥当と考えます。

  11.  次は、一人1日当たりの有収水量です。有収水量とは、漏水を除いた料金対象となる水の量です。1995年をピークに緩やかに減少し、2000年からは減少のスピードがあがっています。2004年に再度上昇していますが、1日300m3を上回ってはいません。県の予測は、この通り極端な右肩上がりとなっています。

  12. 次は、有収率です。有収率とは、どれだけ漏水が少なく無駄がないかを表す比率です。このように有収率は年々高くなっています。これは、配水管の補修などが進み、ロスが少なくなっているためです。この実績から県は2015年の予測値を92、4%としていますが、全国で最も高い有収率を示している福岡市は2002年度で96.5%です。努力すれば上げられる数値をことさら低く見積もるのは不合理ではないでしょうか。せめて95%を予測値とすべきです。

  13. 次は、負荷率です。負荷率とは、夏の暑さにより水使用量が変動する比率です。このように上下動を繰り返しながら徐々に上がってきており2004年度までの5年間の平均は約85%です。これは、冷房設備の完備などによって、夏の暑さがそのまま水の消費量に直結しなくなったためです。しかし、県の予測では年々低くなり、2015年に81.7%になるとしています。長期的に見れば87%を見込めますが、控えめに見積もって85%という数値が妥当と考えます。

    以上、すべての項目について、県の予測は実績を全く踏まえていないことがお分かりいただけたと思います。

  14. そこで、実績値からみて妥当と思われる予測値で1日最大給水量を計算するとどうなるか見てみます。実績値から見て妥当と思われる予測値は右側の数値です。
    人口609万5千人、水道普及率96.9%、給水人口は、人口×水道普及率で590.6万人、1人1日有収水量300m3、1日当たりの有収水量は300m3×給水人口で177万m3、有収率95%、負荷率85%。この予測値で計算しますと1日最大給水量は219万4200?となります。県の予測値とは、実に60万m3近い開きがあります。各々の数値は、控えめに見ていますので、219万m3より低くなる可能性は充分あります。

  15. グラフで見るとこのようになり、千葉県は実績とかけ離れた需要予測をし、係数を操作して、作為的に一日最大給水量を大きくし、八ッ場ダム建設の必要性を無理やり結論付けているとしか考えられません。
    以上のように、人口がピークとなる2015年の水道の1日最大給水量は、約219万m3で、保有水源は252万m3ありますから、12.9%の余裕があり、八ッ場ダムは全く不要です。現在の保有水源は、252万m3となっていますが、県は工業用水を水道用水へ転用する計画を立てていますし、農業用水からの転用がされれば、余裕幅は更に大きくなります。

  16. 次に、地下水について述べたいと思います。
    これは、八ッ場ダムができた場合、佐倉市の水道用水の地下水の割合がどうなるかを表したものです。現状は地下水が66%ですが、ダムができると、暫定井戸が閉鎖され、24%になってしまいます。

  17. 千葉県は地盤沈下を理由に、地下水を削減しようとしていますが、地盤沈下と地下水の揚水との関係は明らかではありません。従って、地下水の更なる削減は不要です。
    地下水は、良質でおいしく安全性の高い飲料水源です。遠くのダムに頼るのではなく、雨水を涵養しながら、自前の水源である地下水を大切に使い続け、次世代に引き継いでいくことが、自然環境を守ることにつながり、経済効率からも正しい施策です。

  18. これは、今年の3月18日の朝日新聞の記事です。「減少 家庭の水道使用。節水家電が続々。自治体の負担重く。無駄なダムのツケが表面化。」とあります。神奈川県では、2001年に宮が瀬ダムが本格稼動したため、年間約60億円の受水費(ダムの水を買う費用)負担が増加し、家庭用の水道料金を2割弱値上げしたということです。福島市や山形県鶴岡市でも同様のことが起きています。
    私たちは、毎日の生活の中で、お風呂の水を洗濯に利用したり、買い替えの時は節水型の機器を購入するなど、節水に努めています。ところが、節水すればするほど水の単価を押し上げ、高い水道料金を払わなければいけないという、非常に矛盾したことが起きてきます。八ツ場ダムができれば、なおさらです。

  19. 最後に、「八ッ場ダムは行政施策上の根拠を失っている」ことについて述べます。
    八ッ場ダムは、1988年に閣議決定された利根川・荒川における水資源開発計画(通称第4次フルプラン)によって根拠づけられています。第4次フルプランの目標年次は2000年とされていましたが、現在に至るまで、新しい水資源開発計画(第5次フルプラン)は策定されていません。水需要が伸び悩み、第5次フルプランの策定が困難になっているためです。従って、八ッ場ダム計画は行政施策上の根拠を失い、宙に浮いているといえます。このような計画に千葉県は参加する必要はないと考えます。

  20. 以上、「利水面から見て、八ッ場ダムは要らない」ということにつき述べました。
    千葉県がこのように全く必要性のない八ッ場ダムに参加し、153億円にも及ぶ利水負担金を支出することは財務会計上許されないことであり、明らかに違法です。よって、特定多目的ダム法第12条の規定により撤退すべきです。

  21.  これで意見陳述を終わります。
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